第8回 学生ライターが行く!ぐんまの就活・ぐんまでお仕事【2024グンマ・シューカツ・ネットワーク】
私は観光が趣味で、全国各地をバックパッカーのように旅をするのが好きです。いろいろな旅館やホテルに宿泊する中で、観光業や宿泊サービスの業界にとても興味を持ちました。そこで今回は群馬を代表する温泉地、伊香保温泉のホテル天坊(渋川市伊香保町)へインタビューにうかがいました。同社で総務部・人事リーダーを務める北村貴治さんに、旅館の歴史や経営方針、求める人材、伊香保温泉などについてお聞きしました。
(聞き手:高崎経済大学3年 藤田慎一朗さん)
―まずはホテル天坊について教えてください。
以前は、伊香保のメインストリートである石段街で収容人数80名ほどの小さな旅館で営業をしていました。その後、車社会に対応するため、石段街から現在地に移転し、1968(昭和43)年4月に「ホテル天坊」と名を改めました。営業面では創業当時から「シティ&リゾート」を掲げ、ホテルの管理面では「生産性の向上」という理念をもって運営してきました。
―「シティ&リゾート」という理念について詳しく教えてください。
「シティ&リゾート」について、ここでいうシティとは合理的な機能を備えた近代的な企業、リゾートとは旅館特有の情緒性をイメージしています。」。個人同族経営ではなく、企業として生産性の向上も目指しています。「第一に働く者のために」という考えを徹底しています。長い歴史の中でも、こうしたテーマの根本的部分は特に大切にしています。
群馬を代表する温泉地の渋川市伊香保町にあるホテル天坊
―ほかに会社として大切にしていることはありますか。
「顕在化していることに対して取り組む」という姿勢を重要視しています。例えば地震や自然災害、新型コロナウィルスなど、当社は予想がつかない「未知数」の外的要因に比重を置いて対応するより、目の前にある課題に取り組み、経営資源(ヒト、モノ、カネ)を常に最適化することに力を入れています。
さらに弊社を取り巻く環境への適応能力の向上も重視しています。例えば、少子高齢化が急速に進んでいる現状から、当館ではユニバーサルデザインを全面的に取り入れています。段差をなくして車いすでの移動をしやすくしたり、客室のドアを引き戸に変えたり。従来の布団からベッドの仕様を徐々に増やす、さらにトイレのスペースを広くとるなど、お客様が過ごしやすいよう施設の細かな部分に工夫を凝らしています。
総務部・人事リーダーの北村貴治さん
―「天坊」の由来は何ですか。
諸説色々あります。一つは創業者の先祖が京都の公家の方で名前が天坊だったという説で、二つ目は本館からの見晴らしが素晴らしい、「展望がいい」ということからその名がついたという説です。現在では二つ目の説が有力です。真相は分かっておりませんが。
―こちらの旅館ならではの特徴はありますか。
日本の企業の特徴の一つが同族経営で、経営者一族が株を所有するのが一般的だと思います。それでは会社のためにならないと考えた創業者は「従業員持ち株制度」を導入しました。全株式のうち約95%を従業員が保有しており、ホテル天坊は「お客さまと従業員の会社である」と位置づけられました。
この制度もビジョンとして大切にしている「生産性の向上」に結びついているかと思います。ここが他社とは違う大きな特徴といえます。
例えば、客室の清掃やセッティング業務は従業員が行うのが通例ですが、弊社では外部の業者にお願いして、接遇などお客様への対応業務に専念できるよう工夫をしています。従業員の生産性向上や労働環境の改善、モチベーションアップにもつながっていると思います。群馬県内で就活中の学生さんにもぜひお伝えしたいアピールポイントですね。
趣味の旅行で宿泊する旅館やホテルの仕事に興味があった藤田さん
―現在はインバウンドなど観光業の状況も良くなっていると思いますが、コロナ禍ではいかがでしたか。
コロナ禍ではお客様の宿泊も制限を受けて、営業面では大変苦労しました。その後、徐々に客足も回復に向かい、現在はコロナ禍以前の水準を超えるまでになりました。
コロナ禍ではいわゆる「三密を避ける」ために多くの旅館、ホテルが従来の団体客を受ける入れることができなくなり、個人客を多く受け入れる方向にシフトしました。そのため団体客需要が回復してきても、かつてのように受け入れ可能なホテルが減ってしまい、選択肢が少なくなっています。そうした状況の中、弊社の特徴である、個人、団体両方に対応ができるホテルの需要が高まっており、追い風になっています。
―旅館を経営する上で一番のやりがいは何ですか。
経営者としては「会社を永続させる」ことに尽きると思います。会社には従業員がいて、その家族がいて、守らないといけないという使命があります。やりがいというより、その使命の下で経営が成り立っており、またその使命を全うできていることこそがやりがいを感じるのではないでしょうか。
―宿泊者に好評なサービスや体験はありますか。
伊香保温泉には2種類の湯の源泉があり、茶褐色の「黄金(こがね)の湯」と無色透明の「白銀(しろがね)の湯」があります。伊香保温泉の旅館では、どちらか1種類の温泉のみ備えているところが一般的ですが、天坊では両方の湯をお楽しみいただけます。
また当館の強みとして、客室(183室)や食事会場(大小宴会場24会場)の数はもちろん、種類も豊富で、目的別にお客さまのニーズに合わせた「泊食分離」と名付けた宿泊サービスを提供することができます。こうした部分が特にお客さまからご支持をいただけている要因かなと考えています。
―地元の方とのつながりや地域貢献に関して、取り組んでいることはありますか。
当社のある渋川市は群馬県北部をはじめ、県内の各観光地へのアクセスがとてもよい立地にあります。観光県である群馬を代表する地域で、働く場所としてもよいのでお勧めなのですが、かつての伊香保温泉は各旅館、ホテル同士がライバル関係で常に売上を競い合うような時代もあり、ある種封建的な雰囲気でもありました。
当時は周辺観光地とのタイアップ事業や宿泊パックが盛んでした。伊香保周辺に数多くあるゴルフ場と組んで、ホテルで宴会をして翌日ゴルフをしたり、レジャー関連ではラフティング体験、夏休みの時期はフルーツ狩りやホタルを見に行くイベントなど県内の各地域と連携した企画が数多くありましたね。
今のお客さまは、旅行前にインターネットで周りの観光資源などをくまなく調べ、納得した上で予約されます。予約までのハードルが非常に高く、そのため旅館単体だけ良くなるのでは足らず、伊香保温泉全体や周辺地域が力を合わせて良くしていく必要があります。
そのため多方面と協力して、「石段街」周辺を大幅にリニューアルし、伊香保温泉全体で盛り上がるよう推進してきました。さらに長年続いている夏のハワイアンフェスティバルや9月の伊香保まつり、秋の紅葉の時期には河鹿橋周辺のライトアップなど地域の人々も含め県内外からの集客を図るようにもなりました。今後も協力していきたいと思っています。
―お客さまにどんな気持ちで帰ってもらいたいと考えていますか。
ありきたりの言葉にはなってしまうのですが、やはり満足して帰っていただく、そして「また天坊に来たい」と思ってもらうことがすべてだと思います。「また来たい」と思ってもらえれば、我々にまたチャンスがあるということです。そんなお客様をどうお迎えをするか、ふたたび期待に応えられるホテルであり続けられるか、という点を常に意識していかなければならないと思っています。
―お客さまからかけられて、うれしかった言葉はなんですか。
やはりお客様からいただく「ありがとう」という言葉が、われわれにとって常に最大のやりがいになります。「ありがとう」と言ってくれるお客さまは、特に良い思いをしていただいたから、感謝の言葉をかけてくれていると思います。一人でも多くの方にそう言ってもらえるために、何をしたら良いかと「想像=創造」することもやりがいだと思います。
ホテル天坊のエントランス・ロビーにて
まとめ
今回のインタビューを通して、現在のホテル天坊は多くの試行錯誤の上に成り立っているという点について理解が大変深まりました。また観光業について、特に顧客のニーズにどう焦点を合わせるかという部分の難しさや面白さを知ることができました。
インタビュー後に館内を見学させていただきました。正面玄関を入ってすぐのロビーは解放感にあふれ、フリードリンクや60インチが9面もある大迫力のテレビ、足湯など、チェックインの待ち時間も楽しめるような仕組みがありました。
また900名の宿泊客を同時に受け入れたこともあると聞き、旅館業の規模の大きさに驚きました。私もいつか実際に宿泊してみたいホテルだと、心の底から思いました。取材にご協力いただきました北村様ならびに、お力添えくださった皆様に心より感謝申し上げます。誠にありがとうございました。
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② 明星電気株式会社
⑦ 伊香保温泉ホテル天坊