第7回 学生ライターが行く!ぐんまの就活・ぐんまでお仕事【2024グンマ・シューカツ・ネットワーク】
就活生の皆さんは「群馬で働く」ことにどのようなイメージがありますか?
「地味そう」「給与水準が心配」などマイナスのイメージもあるのではないでしょうか。特に、コンテンツを作り出す仕事という観点から見ると、クリエイティブ企業が群馬にもあるとは想像できませんでした。
「学生ライターが行く!グンマ・シューカツ・ネットワーク」は、実際に群馬で働く人に、学生目線で話を聞くことができる貴重な機会です。今回は、群馬県を拠点にブランディングを核にグラフィックデザイン、映像・写真、WEB・ECサイト制作、光と音と映像のナイトウォーク(Ignition SERIES)、レーベル事業など、幅広い事業を展開するトータルブランディング会社「Sunset films(サンセットフィルムス)」の代表取締役、井埜(いの) 涼太さん、新卒社員の中居さんにお話をうかがいました!
(聞き手:大東文化大学3年・神宮穂乃花さん、藤井葵さん)
―井埜さんが今の仕事についた経緯を教えてください。
井埜さん:自分は高校卒業後、大学には進学せずにインディーズバンドをやっていました。デビューはしたのですがなかなか売れず、留学したりもしましたが、逆にうつ状態になってしまって…。
その後、ニート生活をしていました。親には「バイトに行ってくる」と嘘をついて、弁当だけ持って出かけて、公園でハトにえさをあげたり(笑)。3カ月後に携帯電話の契約が止められて、親に働いていないことがばれました。それで親が看護師だったこともあり、無理やり看護学校に入れられて、23歳で看護師になりました。
―元は看護師だったとは驚きです!
井埜さん:心臓病など深刻な病の人を診ている専門病院のICU(集中治療室)で働いていました。ICUの専門資格や呼吸療法認定士なども取得して頑張っていました。ただ30歳手前で、生死の現場にいることに感覚がまひしてしまい…。集中治療室は患者1人に対して看護師1人が担当します。一日が終わって次の看護師に引継ぎをする時、その患者さんの名前が分からなくなるなど「燃え尽き状態」になってしまい「このままではだめだ」と、ひとまずほかの病院に移りました。
―映像制作に興味を持ったきっかけは?
井埜さん:環境が変わったことをきっかけに、もう一度、音楽をやってみようと思いました。時代的にパソコンで音楽が作れる環境が整ってきていたので、自分で作曲して、まだ始まったばかりのインスタグラムに曲をアップしていました。やり始めてみたらフォロワーが面白いくらい伸びていきました。「それならバンドにしてみよう」と、病院のメンバーを集めて「エアバンド」(楽器を演奏せずに演奏のまねをするバンド)を結成しました。これがすごい反響で、ライブを開けばチケットがソールドアウトしたり、ファンが全国から来たりするように。ただファンが目標数値を超えた頃から、なんとなく自分の中でゴールがみえてしまって…。
一方で、カメラマンと一緒にバンドの戦略を練って「映像をこう使ったらいいよね」とマネジメントしているうちに「自分たちが生み出したものを上手く売っていくこと」の楽しさに目覚めました。
「クリエイティブやデザイン、映像に携わる人たちをもっと輝かせてあげたい」という思いから、企業系の映像コンテストにも挑戦して「群馬県知事特別賞」を獲ることができました。徐々に企業系のビデオの制作も行うようになりましたが、映像だけではまだ不十分で「何も変えられない」と思うように。デザイナーやウェブ制作の担当者を集めて協力してもらい、今の会社を設立しました。その時には、もう看護師には戻らない覚悟を固めていましたね。
ご自身で会社を設立した経緯を語ってくれた井埜社長
―クリエイティブ職のアピールポイントや「こんな人に向いている」というポイントはありますか。
井埜さん:クリエイティブは華やかに見えて実はすごく泥臭い。みんなの頭に浮かぶ良いものを「しぼり取る」という感じで、結構疲れる作業です。だけど、みんなで作り上げ、できあがった時のうれしさや満足感は格別です。この楽しさがあるから、どんなに苦労したとしても、最後はよく頑張ったなとなりますね。一つコンテンツをつくる度に成長を感じ、達成感を得られることがクリエイティブの魅力だと思います。
クリエイティブ職に向いているのは「アイデアを日常生活の中で思い浮かべることができる人」ですね。自分自身でデザインができなくても、例えばカフェに行った時に「オペレーションはもっとこうしたら」「ここのデザインはこうしたらいいのに」など気付ける人です。あらゆる場面で「こうしたらもっといいな」とアイディアベースでも考えられることが、クリエイティブ・ディレクションの仕事につながります。
取材担当の神宮穂乃花さん
―制作の過程で質問ですが、スタッフの皆さんが作りたいものが違う場合、意見をすり合わせるのはどうするのですか。
井埜さん:自分の好きなものをつくる人は「アーティスト」。クライアントの要望に応えてデザインを作るのが「デザイナー」だと自分は考えています。私たちは行政案件やアーティストのМVを作るなど、さまざま仕事がありますが、顧客の要望に全員で応えていくので、ゴールがずれることはないです。上役の人間がマネジメントして、「ヒアリングシート」に視覚的にまとめて、要素を整理したうえでデザイナーに渡すという手法です。しっかり打ち合わせをして、デザイナーとゴールの「解像度」を上げていくことを心がています。
取材担当の藤井葵さん
―SNSの運用や広告施策で、人の心を掴むために意識していることを教えてください。
井埜さん:誰も思いつかないようなことを、面白くやることですね。「非常識な感じだけど、常識に持っていく」コンテンツをつくるよう心がけています。
例えば、高崎市の移住促進事業の動画を作ったのですが、こういう動画は普通、移住者にインタビューして終わり、という構成が多いと思います。当社では今回「宇宙人あだちの高崎TRIP!」という「高崎は宇宙人でもいいって思える街だよ」というテーマのメッセージ動画を作りました。非常識な感じもするけれど、見る人の印象には残る―。そのバランスの取り方が大切だと思っています。
―次に新卒入社の中居さんにお伺いします。どのような経緯でこの会社に入られたのですか?
中居さん:もともと群馬県にはなじみがなく、ずっと東京で暮らしていたのですが、仕事先を探していた時に偶然こちらの会社を見つけて…。自分から声をかけて、インターンシップに参加し、社風が自分に合っていると思い入社を決めました。
―インターンシップでは具体的にどのようなことをしたのですか?
中居さん:映像制作に興味があったので、撮影現場に同行して、スタッフの仕事の様子を見学しました。実際に現場を見た時、「自分のやりたいことだけを仕事にすると考えなくてもいい」という気付きがあり、企画の仕事も経験してみたりしました。現在は企画に近い仕事をしています。
新卒採用の中居さんにもお話しを伺いました
―中居さんは就職を機に東京から群馬に引っ越された、Iターンをされたわけですが、それは勇気がいる選択でしたか?
中居さん: そうですね、確かに周りにはあまりいなかったです。ただ私にとっては大きなチャレンジとは思わず、とにかく今の会社に魅力を感じたので。住む場所にはこだわっていなかったですね。
実際に暮らしてみて、暮らす環境はむしろ東京より便利だと思います。車でどこへでも行けますし、東京の満員電車とは縁が無くなって、すごくストレスフリーです。東京に帰りたいと思えば、車で1時間半くらいで帰れますし、物理的にも心理的にもそこまで大きなギャップはなかったですね。
―新卒で入社して、苦労したエピソードがあれば教えていただきたいです。
中居さん:正直、苦労は多いです。本当に答えがない仕事ばかりなので…。自分で考えて、やってみて、失敗して、学んで、また挑戦しての繰り返しです。「失敗を経験と思える度胸」は必要だなと感じています。
―働く上で役に立った大学での経験はありますか?
中居さん:例えば、短期留学したり、サークル活動やアルバイトをしてみたり、そういう小さな経験が自分の価値観を広げてくれたし、「誰かのため」を考える今の仕事に生かされていると思います。
―大学はやはりデザイン系の専攻でしたか。
中居さん:実は全く関係ない学部です。社会科学系の学部で、さまざまな学問を幅広く学べたので価値観は広がったかと思います。この会社に入る時も、仕事を通じて多様な価値観に触れられる点が決め手でした。決まった業種やジャンルにとらわれない仕事なので、そこがすごく私に合っていました。
私は何か一つ決まった夢があるタイプではありません。どんな方法であれ、自分に関わった人が少しでも前向きに、明るくなれればいいなという軸を持って就職活動をしたので、本当にいろいろな業種を受けたんですよ!
この仕事は「何でも挑戦してみたい」という人に合っていると思います。顧客の課題に全力で関われる姿勢があれば、すごくやりがいを感じられる仕事だと思います。
―新卒採用は行っているのですか。また求める人材について教えてください。
井埜さん:新卒採用もしていますし、インターンはSNSで募集しています。自分から門をたたいてきてくれる人が一番マッチすると思います。「合っているな」と思って自分から来てくれる人の方が、この仕事には向いていると思います。
中居さん; 私もインターンに参加するまでは、この会社は何をしているのか、どういう人たちが働いているのか全く分かりませんでした。あの時、声をかけてみて良かったと思います。
井埜さん:当社は代理店などを入れず、直接クライアントとやり取りをしているので、クライアントの考えをくみ取って一緒につくっていけるところが強みです。その「想い」を真摯(しんし)に聞ける人が向いていると思います。そこが根幹にないと、この仕事に意味を見出せないかと思いますね。
中居さん:私も人とのご縁を大切にする会社というところに強くひかれました。もちろんビジネスですが「お金第一」というより、この仕事で誰かを喜ばせられる、人とのつながりや思いを大切にできることが、私に一番合っています。
どんな仕事であれ、誰かの役に立っています。お客様からの「ありがとう」はクライアントと真剣に向き合うことで成り立ちます。心からのやりとりの結果だと思います。この仕事を通して誰かのために熱くなれる、そんな人との出会いを待っています!
聞き手の二人とポーズを決めていただきました
取材をしてみての感想
(神宮さん)
今回の取材を通して、群馬のクリエイティブ職に対するマイナスな印象が変わりました。また、クリエイティブな仕事といっても、想起するキラキラしたイメージとは異なり、実際は地道で苦悩の連続であるということを知りました。自身のお仕事を意気揚々とお話するお二人の様子から、とてもやりがいのある仕事だと感じました。就活では、群馬だからとらあきめずに業種を問わず、幅広い視野を持って行動すると良いと思います!
(藤井さん)
取材をするまでは、クリエイティブ職の方々を「天才肌の集団」というような勝手なイメージを抱いていました。しかし実際に話を聞いてみると、クライアントとの「ご縁」を何より大切にし、相手の想いをくみ取って一緒に成長したい、という信念が伝わってきました。「楽しいのは一瞬で泥臭い過程がほとんど」という井埜さんの言葉から制作現場のリアルを知ることができ、だからこその魅力もお聞きすることができて充実した取材となりました。今回聞けた話や体験を自身の就活にも活かしていきたいです。取材に関わっていただいたSunset filmsさん、本当にありがとうございました。
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